Leanな生活について考えるブログ

「LeanStartUp」や「デザイン思考」や「UX」な考え方についていろいろ考えたり、日々の生活で実践したり。

シーン9−3 雄一と西島(3) ジャムパン

○ 学校、屋上 
 
 錆びた鉄の柵はみすぼらしいがいい味を出している。剥げたタイルの上にはふみにふまれたガムのカス。
 
雄一「…アメリカ」
西島「ま、テレビの企画なんだけど。ドキュメンタリーのやつ。よくあるやつ、あるじゃん」
西島「まあ、そのためにアメリカにしばらく住む。そんで探す、役者の仕事」
雄一「ふーん」
 
 手に持ったジャムパンに視線を落とす。
 
西島「だから文化祭は無理だわ、部員たんなくて俺いないとできないんだよ」
雄一「でももうすぐ、全国大会なんだろ?」
西島「ああ。それはみんなでやった結果だからさ、ちゃんとやるよ。
 それおわったらすぐいくつもり。だから今準備で大変、あ、きてくれよ、これちらし」
雄一「…」
 
 ちらしには「ザネリの夏 〜ほんとうのさいわい〜」と書いてある
 
西島「どう思うよ?」
雄一「いいんじゃねえの?なれんじゃん?お前だったら」
 
 牛乳を一気に飲み込んだ。空き容器をその辺に投げる。
 
 そして左 手で鉄の柵を 握る。
 目を細めどこか遠くを見ているふりをする。
 
雄一「才能あるしな」
西島「別にねえよ」
雄一「お前なんかいろいろ賞とかもらってたじゃん」
西島「しょせん高校レベルだ」
 
 上を向きながらわらっていう。そして柵にもたれかかる。
 つかんでいた柵を強めに握りなおす。
 無表情のまま下を見下ろす。
 
 
 校庭でサッカーをしている連中が見える。
 
 
雄一「高校やめんの?」
西島「あぁ」
雄一「へえ」
西島「勉強なんてしたって意味ない」
 
 いらつく雄一
 
雄一「金とかどうすんの?」
西島「ああ、バイトしてる。とりあえず旅費だけは確保する」
 
雄一「…あっちでくっていけんの?」
 
 
西島「ストリートミュージシャンとかさ
 まあ、なんでもやって暮らすさ。なんとかなるだろ」
雄一「…ふーん。そうか。まあ、昔から夢だったもんな、お前」
西島「そうだな」
雄一「…」
 
 西島、上をみながら
 
西島「お前もこないか?お前だってアメリカで音楽やりたいっていってたじゃない」
雄一「俺はできないよ」
 
 飛行機が通る
 音がうるさい
 
雄一「そんな馬鹿なこと」
 
 雄一、小声でつぶやく
 雄一西島をじっとみつめる
 
西島「ん?どうしたんだ?」
 
 しばらくぼーっとしていた雄一
 
雄一「・・・あのさ」
西島「なに?」
雄一「…ゆうって最近どうしてるのかな?」
西島「…」
西島「うん、最近こっちに来たみたい。なんか高校やめて今こっちで一人暮らしだってさ」
雄一「へえ」
西島「俺もこの前偶然会ってさ。雄一に会いたいって」
 
 西島うつむきかげんに。微妙な表情
 
西島「これ、あいつんちの住所」
西島「渡してって言われてたんだ、すまん、遅れて」
雄一「別に」
 
 雄一西島からくしゃくしゃになった紙をもらう
 
西島「あ、ていうか、ごめん、やっぱりいっておこう」
 
 西島、少しあわてる
 
雄一「つきあってんだろ」
西島「しってたのか」
雄一「いや、なんとなくそんなとこかなと」
西島「…しばらくたったら戻ってくる。それまで遠距離ってかんじだな。
西島「その間、お前、あいつのこと頼むよ。信頼できるのはお前だけだ」
 
 
 雄一、鼻で笑う
 
雄一「ああ」
 
西島「あいつは、いいやつだよ」
 
 西島ひとりごとのように言う
 
雄一「とにかくさ、がんばれよ」
西島「ああ。がんばるさ。有名になったら俺のこと自慢できるぜ」
 笑いながら言う。
雄一「そうだな」
 
 チャイムがなる
 
 
西島「いかなきゃ」
 
 去り行く背中、右耳のピアス。俺はそれらを見ていた。いや、見ていたというには目が細くなりすぎていたか もしれない。顔は強張っていた。そしてその冷たい視線をそ のまま自分の 右手に。
 そこには僕の手のひらで握りつぶされたパンがあった。手のひらに甘いジャムがくっついている。
 
西島「行く前にお前としゃべれてよかった」
 
 西島はドアをしめ屋上から降りていった。
 雄一
 つぶれたジャムパンを思い切り空へ投げる。
 
 ジャムパンは地面へ落ちる。
 
雄一「・・・ニュートン万歳」
 
 自嘲気味に雄一が言う
 そしてジャムパンをふみつぶして授業に向かった
 
 
○ 家
 アメリカのレコーディングスタジオのページを見ている
 それをびりびりに破く
 
雄一の声「投げたジャムパンは地面に落下する。そのままどこかに飛んでいったりしない。俺たちはどこにもいけやしない。ここから飛び出して、外へいくことなんてできない」